輝《かがや》かしい凱歌《がいか》

   輝《かがや》かしい凱歌《がいか》

 お竜が腰をおさえ、歯をくいしばっているのは、帆村にとってたいへん幸いだった。 帆村は素速く蠅男の背後にまわると、湯|交《まじ》りの砂の中にもがく蠅男を、うしろからグッと抱きあげた。「ううぬ」 と蠅男は満身の力をこめて、抱えられまいと蝦《えび》のようにピンピン跳ねまわった。これを放してはたいへんである。帆村は両腕も千切れよとばかり、不気味な肉塊を抱きしめた。 蠅男は蛇のように首を曲げて、帆村の喉首に噛みつこうとする。「もうこっちのものだ。じたばたするだけ損だぞ」 この言葉が蠅男の耳に入らばこそ、怪魔はなおも激しく抵抗する。さすがの帆村も、その大力に抗しかねて、押され気味となった。 だが帆村にはまだ、自信があった。 彼は蠅男を抱きしめたまま、悠々と砂風呂の出入口から外へ出た。そして足早につつーッと走ってプールのある広間に駆けこんだ。「皆さん、蠅男をつかまえましたッ」 というなり帆村はそのまま、ザンブリと熱湯満々たるプールの中にとびこんだ。「うわーッ」 と、これは蠅男の悲鳴だ。 帆村の作戦は大成功をおさめた。義足義手をつけては天下無敵の蠅男も、帆村に抱きしめられて暴れるたびに、ズブリズブリと水雑炊ならぬ湯雑炊をくらってはたまらない。二度、三度とそれをくりかえしているうちに、蠅男は、だんだんと温和しくなっていった。「さあ皆さん。住吉署に電話をかけて下さい。署長さんに、帆村がここで蠅男をおさえていると伝えて下さい」 この場の唐突《だしぬけ》な乱闘に、プールから飛びあがって呆然としていた入浴客は、ここに始めて、目の前の活劇が、いま全市を震駭《しんがい》させている稀代の怪魔蠅男の捕物であったと知って、吾れにかえって大騒ぎをはじめた。

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