自分の巧妙な義手の話

 帆村は、すっかり観念したように装いながら、実はしきりと時間の経過するのを待っていたのだ。あまり長くなると、きっと連れの楢平が怪しんでこの砂風呂に入ってくるだろうから、そのとき騒げば助かるかもしれないと思っていたのだった。「あの巧妙な手や足はずいぶん巧妙にできているが、一体何と何との働きをするんだ」「あれはこうだ。まず右手の腕には……」 と、蠅男はついいい気になって、自分の巧妙な義手の話をはじめた。それを帆村は、さっきから待っていたのだ。突然彼は、「えいッ」 と叫ぶなり、満身の力をこめて、砂の上にガバとうつ伏せになった。「ああッ」 とお竜が叫んだときは、もうすでに遅かった。帆村の力にひかれて、お竜は強く前の方にグッとひかれ、ヨロヨロとなったところを帆村はすかさず、さっと身をうしろに開いたから、大きなお竜の身体は見事に背負い投げきまって、もんどりうって前に叩きつけられ、したたか腰骨を痛めた。それも道理であった。帆村はお竜の身体が、蠅男の首の真上に落ちかかるよう、うまい狙いをつけて、一石二鳥の利を図ったのだ。「あッ、危いッ」 と蠅男が悲鳴をあげたが、既にもう遅かった。蠅男の首はズブリと砂の中にもぐりこんだ。 素晴らしい転機であった。 帆村の沈勇は、よく最後の好機をとらえることに成功し、辛《かろ》うじて死線を越えた。 帆村の身体は、いまや軽々と自由になった。 砂の中にもぐりこんだ蠅男の苦しそうな呻き声。だが不死身の蠅男のことであるから、そう簡単に、砂の中で往生するかどうか。 蠅男は、まるで怒った牡牛のように暴れだし、あたりに砂をピシャンピシャンとはねとばした。この怪魔に対し果して帆村に勝算ありや!

— posted by id at 03:24 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 0.0375 sec.

http://rpgfiles.net/