冥土《めいど》の土産

「こ、殺される前に、一つだけ聞きたいことがある。く、頸をすこし、ゆ、ゆるめて……」 それを聞くと、蠅男はなに思ったか、お竜の方にそれとサインを送った。その効目《ききめ》か、お竜の指の力は、申訳にすこしゆるんだようだ。「早く云え」「うむ」と帆村は喘《あえ》ぎ喘《あえ》ぎ「貴様は、なぜあの三人を殺したのだ。鴨下ドクトルと玉屋と塩田先生と、この三人を殺すには定《さだ》めし理由があったろう。それを教えてくれ」「そのことか」と蠅男はたちまち見るも残忍な面になって、「冥土《めいど》の土産にそれを聞かせてやろうか。鴨下というエセ学者は、五体揃った俺の身体を生れもつかぬこんな姿にしてしまった。自分のために、他人の人生を全然考えないひどい野郎だ。それを殺さずにゃいられるものか。玉屋のやつは余計なおせっかいをしやがったため、俺は永い間牢獄につながれるし、死刑まで喰った。俺が南洋で西山を殺したのは、金に目がくらんだためばかりではなかった。彼奴《あいつ》は、俺に勘弁ならない侮辱を与えたんだ。その復讐をしてやったのだ。塩田検事は、俺を死刑にしても慊《あきた》らぬ奴だと、ひどい論告を下しやがった。それがために、俺は無期の望みさえ取上げられてしまったのだ。どうだ、お前と俺とが入れかわっていたと考えてみろ。お前もきっと俺のようにしたに違いないんだ」 なんという恐ろしい告白だろう。一応条理はたっているつもりで、悪いと思うどころか平然と殺人をやって悔いないとは、正に鬼畜の類であった。「まだ、やるのか」「まだまだやっつける奴がいる。さしあたりお前をやっつけてやる」「いつも脅迫状につけてあった、あの気味のわるい手足を※[#「てへん+宛」、第3水準1-84-80]がれた蠅の死骸は?」「分っているじゃないか。手足のない俺のサインだ」

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