まるで坊やとのお約束みたいです

「それからもう一つはなア、一日に一度だけは、うちへ電話をかけとくんなはらんか。そうしたら、うち安心れて睡られます。よろしまんな」「はッはッ、まるで坊やとのお約束みたいですが、たしかに承知しました。ではこれで、僕はかえります」「あら、もう帰ってだすの。まあ、気の早い人だんな。いま貴郎《あなた》のお好きな宇治羊羹を松が切っとりまんがな。拝みまっさかい、どうぞもう一遍だけ、お蒲団の上へ坐って頂戴な」 糸子は、真剣な顔をして、いっかな帆村を帰そうとはしなかった。 帆村は予定どおり、夜の闇にまぎれて、浮浪者姿で天王寺公園に入りこんだ。「こらッ、お前なんや?」 乾からびた葡萄棚の下に跼《うずくま》ったとき、ロハ台に寝ていた男がムクムクと起きあがって、帆村に剣突《けんつく》をくわせた。「ああ、おらあ新入りなんだ。こっちの親分さんに紹介してくれりゃ、失礼ながらこいつをお礼にお前さんにあげるぜ」「な、なんやと。お前、東京者やな。おれに何を呉れるちゅうのや」 帆村は五十銭玉を掌の上にのせてみせた。かの男は、たちまち恵比寿顔《えびすがお》になって、いやに帆村の機嫌をとりだした。「ふーン、わしに委《まか》しといたらええねン。大丈夫やがナ。親分の名は藤三《とうぞう》いうのや。紹介したる、さあ一緒についてこい」 楢平《ならへい》という男の案内で、帆村は藤三親分の配下に臨時に加えて貰うことになった。 彼はここでも、いささか金を親分に献上することを忘れなかった。「あんまりパッパッと金を使うのはあかんぜ」 と、早速《さっそく》親分らしい注意をした。

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