地下に潜る

「呀《あ》ッ。わかりましたよ。その田鶴子という派出婦は、もう二度とこの家にかえってきませんよ」「なぜだい」検事が聞いた。「いや、その田鶴子という派出婦は、蠅男の情婦のお竜《りゅう》が化けこんでいたに違いありません。蠅男では、到底《とうてい》入りこめないから、そこでお竜が化けこんで、秘密倉庫のなかのものを持ち出していたんです。丸顔といいましたネ。お竜を見た人間は、そう沢山いないのです。僕は宝塚で二度も見かけて、よく知っています。正にお竜にちがいありません」「な、なんという大胆な女だろう」「さあ皆さん、これによっても、蠅男はいよいよこの附近に潜伏していることが明白になったじゃありませんか。一つ元気をだして、蠅男を探しだして下さい」 帆村の言葉に、一座は急にどよめいた。

   地下に潜る

 こうなったら、死闘である。 恐るべき機械化された殺人魔を、一日いや一時間でも早く捕えることが出来れば、どれだけ市民は安堵《あんど》の胸をなでおろすか測りしれないのである。 帆村は、とうとう意を決して、警察側と全然|放《はな》れて、巷《ちまた》に単身、蠅男を探し求めて、機をつかめば一騎うちの死闘を交える覚悟をした。 それを決行するに当って、糸子の小さな胸を痛めないようにと、帆村は彼女の家を訪ねて事態を説明した。 糸子は帆村がこの上危険な仕事をすることに忠言を試みたけれど、彼の決意が、市民を一刻も早く安心させたいという燃えるような義侠心《ぎきょうしん》から発していることを知ると、それでも中止するようにとは云えなかった。「帆村はん。これだけは誓うとくれやす。必要以上に、危険なことをしやはらへんことと、それからもう一つは、――」「それからもう一つは?」

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